※10年後ツナバジ




「・・・さて、と・・・」

にこり、と微笑みを浮かべて。
しかしながら目の笑っていないボンゴレ10代目・・・沢田綱吉の座る椅子の正面に立ち、バジルはさながら廊下に立たされている生徒の如くどこか決まりが悪そうに目を伏せた。

「オレもね、バジルくんのことは信用してるしある程度任せちゃってるし、大体君の立場ならオレが口出し出来ない権限だってあるんだし。良いんだよ、別に。」

あまりにもバジルが神妙な面持ちに見えたものだから、まずは「怒ってないよ」というスタンダートな友好の意思表示をしてみせてから、ツナは付け足す。

「でもね、・・・わかってるとは思うからそんなに強くも言えないけどさ、もう子どもじゃないんだからあんまり突っ走った行動もどうかと思うんだよ。」
「・・・はい。」
「あ、怒ってないからね?」
「はい・・・。」

とりあえず座りなよ、と苦笑しながらソファを示したツナに頷いて、バジルはおずおずと腰を下ろした。

「バジルくんの事だもん、あんまり無謀なことはしないだろうしちゃんと勝算もあったんだろうし、考えてたとは思うよ?」
「それは、当然です。」
「だよね、現に何も悪い事はしてないもん。」


こくり。確り頷いたバジルに、笑う。

「たださぁ、幾ら勝算があろうと問題が無かろうと、仮にも門外顧問の重役が・・・独断はまだしも単独で余所のファミリーに突っ込んでっちゃうなんてそれこそ鉄砲玉じゃないんだしどうかなともオレは思ったんです。」

おわかり?と視線で示せば、少々恥ずかしそうに頷いた。今度は動きがぎこちない。

「そりゃああそこはオレにとっても、あんまり仲良くできるとは思えないとこだったし。実際に結構嫌なアクションかましてきたし。近々やりあうんだろうなとは思ってたよ。向こうの方はそういうつもりだったんだろうしね。」
「最近の動向・言動には特に見過ごせないものが多かったですから。ボンゴレにとっても、地域の方々にとっても最早悪影響しか与えないと判断しました。」
「それは、そうだろうね。・・・でも、何でまた突然突っ込んでったの?
報告受けた一陣が「門外顧問が既に壊滅したそうです」ってこれおかしくない?もう全部終わった後じゃん。」


一応ボスなんだけど・・・と、冗談で笑うとバジルは即座に頭を下げた。

「すみません、ご報告してから行動するのが道だとは思ったのですが・・・」
「いや、バジルくんは門外顧問だもん。時にはね、オレの意見無しで独断で動いてもらわないと困るんだけど・・・でも、それ程のことでもないでしょ?」

たかがゴロツキ風情、と随分な言葉でバジルが壊滅に追いやったファミリーを称する。


「・・・はい、ご報告してから・・・とは、思ったのですが・・・」
「うん?」
「・・・思ったのが少し遅くて・・・」
「・・・壊滅した後?」
「・・・はい;;;」

項垂れたバジルに、もう充分反省しているだろう様子が見て取れてツナは頭を上げるように優しく諭す。


「バジルくん、意外と激しやすいもんね・・・。」
「面目次第も御座いません・・・。」
「まぁ、イタリアンマフィアだから。」

しかし・・・と、ツナは息を吐く。

「血気盛んなのもある程度はしょうがないけど、あんまり我を忘れちゃあ駄目だよ。ほら、昔温泉行った時みたいに。」

「・・・;;;」


以前の話を持ち出され、せっかく上げた顔をまた伏せてしまうバジル。

「思えばあの時が初めてかなぁ、バジルくんって温厚そうだったから意外と強情なのに吃驚したよ。」
「・・・すみません;」
「いや、面白い思い出だけどね。」

まだ、中学も卒業していない頃。

いつものメンバーにバジルやディーノも交えて、日本の温泉宿へ旅行したことがある。

初めての温泉に大喜びのバジルだったが、如何せん草津の湯はバジルには熱すぎた。
思わず足を引っ込めたバジルを、ツナの修行を任された新入りということで元々気にかかっていたのだろう自称右腕の獄寺がここぞとばかりに忍耐が足りないと罵り、それがどう彼のプライドを刺激したものか、結局草津の温泉は獄寺VSバジルの我慢対決会場になってしまった。

因みに結果は2人が逆上せてノックダウンの引き分け。


獄寺も大概プライドが高く負けず嫌いなのは知っていたが、まさかバジルにもそんな一面があるとは当時思ってもいなかったツナは意外な一面に驚きつつ・・・最終的には半ば呆れながら全身桃色に火照った身体でぐったりしているバジルを部屋まで背負っていったのだった。


「本当、冷静なようでいて局所的に激しやすいところがあるから・・・」
「申し訳ありません・・・。」
「どうせオレの悪口かボンゴレの悪口か言われちゃったんでしょ?」
「はい・・・元々近い内に片付けなければと思ってたところにそのような態度を見せたものですから、これはこのままのさばらせておくわけにはと・・・」
「うん・・・OK、解りました。」


とん、と机に手を置いてツナが立ち上がる。

「この件はこれで良いよ。オレもちゃんと状況把握できたし、元々何か問題のあることじゃないからうちでも気にしてる人間なんていないし。」

ただ・・・と、一言挟んでツナはじっとバジルの青い双眸を見つめる。

「問題なくても、心配はするでしょ?だから、あんまりこういう無茶はしないようにね。」



君に何かあったらオレの方が我を忘れてしまうから。



不意打ちのそんな男らしい言葉に、バジルはさっと頬を桃色に染めて俯いて。

とてもとても、激情に任せてファミリーを潰した男とは思えないそんな仕草に苦笑しながら、普段は大人しい飼い猫のような彼の人の額に口付けた。

自分には可愛い猫でも、敵にとっては虎なんだろうなぁ、なんてぼんやり思いつつ。
結局猫でも虎でも、愛しい自慢の恋人には変わらないのだけれど。