セーラー 10年後ツナバジ
彼の事を、沢田綱吉は良く知っていた。
また、彼も沢田綱吉・・・ボンゴレ10代目の自分の事を良く知ってくれている。
長い付き合いなのだ。そう、長い。もし・・・こんな道に歩まず、極々平凡に日本で暮らしていたならばきっと一生出会うことは無かったであろう、相手。
でも、今は・・・掛け替えの無い何年分もの記憶がある。彼と築き上げてきたものが沢山ある。
その昔に京子は言った。ツナと、彼・・・バジルは双子のようだと。
確かに、まだ幼い時分の二人は似ていた。何がどう、というのではないけれど・・・。
そんな風にして育ってきたのだから、彼がどんな人間かツナは良く知っていた。
そして、その人間性に反してどんなに恐れられているかも知っている。下手をすれば、ボスである自分以上に・・・ファミリーの外からは恐れられる存在。
ボンゴレ門外顧問として君臨する彼が、酷く和やかで穏やかな人間だということをツナは長い付き合いの中で良く把握しているが・・・
その青い切れ長の目と美しい長髪、抜けるような白い肌。
一見して女性と見紛うような柔らかな美貌のままに、寸分の躊躇いも見せずにボンゴレに仇なす存在を消し去る様がきっと・・・余りに相反した印象を与えるが故に、彼は必要以上に恐れられていた。
あまり喋らないこともその要因だろう。人見知りをするわけではないのだが、昔から何処か自分を一歩引いたように見ているところと日本人以上に謙虚な性格のせいで、バジルは殆ど仕事の場で喋らない。
そのせいでより一層、バジルの性格は冷たいものに見られてしまう。
長年バジルを見てきたツナにとっては、バジルは生真面目で穏やかな人間で、全く冷たい、恐ろしい・・・という印象は与えないのだが・・・
その日、初めてツナの目は・・・バジルという数年来のパートナーを恐ろしいものとして認識した。
「・・・沢田殿、お目覚めですか・・・?」
いつものような、誤解を招く少ない言葉と切れ長の目。
ふわりとした印象だった幼い頃から比べ、大分鋭い印象になった彼が
何故か
そう、何故か・・・セーラー服を着ていた。
「・・・はい?」
得体の知れない存在を前に、ツナは思わず不躾に疑問符を投げた。
「・・・大丈夫ですか?体調不良でお休みになられたと伺ったものですから、差し出がましいとは思いつつお見舞いに参ったのですが・・・」
心配そうに眉根を寄せるのはとても様になるのだが。首から下を見なければ。
「・・・いや、あの・・・え、夢?」
「・・・沢田殿?」
本格的に心配そうな彼の瞳に映る自分を見て、現状を改めて思い出す。
そう、ここ数日同盟ファミリーの内部紛争の影響で慌しく・・・とうとう今日は寝不足が祟って足元がふらついたため、大事を取って休息としたのだ。
そんな自分を心配して、彼は見舞ってくれたのだろう。それはわかった。それは良い。ただ・・・
「・・・何で、セーラー服なの・・・?」
ただただ、シリアスな表情をしている彼の、表情(及び年齢・性別)に合わない服装が気になって仕方なかった。
如何にバジルが女性的な美しい顔立ちだとしても、・・・まだ幼い頃なら似合っただろう。でも流石にもう24歳の立派な成人男子。顔が女性的でも体格は男だ。それに、女性的だからと言ってセーラーが似合うとは限らない。・・・この厳しい涼しげな顔にセーラー服はあまりにミスマッチだった。見ていて悲しみすら湧いてくる。
「・・・セーラー服・・・と、言うのですか?」
「・・・・」
きょとん、としている彼の表情は、大人になった今でも本質が変わらないことを示していて。
それを可愛らしくも思いつつ、何故こうも学習しないのだろうかと溜め息が出てしまう。
あぁ、もう、全く!
「・・・今度は誰に何を教わってきたの」
「はい、親方様とリボーンさんとディーノ殿に擦れ違いまして」
「また凄い面子だねそれ・・・」
「沢田殿のお見舞いへ行くといったところ、この服は日本に古来より伝わるお見舞いの正装で、この服で見舞えば回復祈願にもなるとお聞きしたものですから・・・それで、如何にかして手配しなければと思っていたところ、ディーノ殿が拙者用のサイズを持っているとの事で快く貸して下さったのです。」
何故ここで彼は、体格の違う彼が自分用のサイズを持っていることに疑問を覚えないのだろうかと今更に嘆く。
「・・・そう・・・」
若干、体調不良も相まって疲れきった返事を返したところで、基本的に相手の反応を気にしない(所謂空気が読めないというやつだ)バジルはにこにこと笑ってから、ツナの目をじっと見つめて。
「・・・沢田殿に、早く良くなって頂きたくて・・・」
究極の言葉と上目遣いをセットで投下。
あぁ、ほら。・・・だからみんな知らないんだ。
切れ長の目。鋭い眼差し。でも、彼の中身はこんなにも
「・・・ありがとう、バジルくん。・・・でも次からはもう少しその3人は疑った方が良いからね。」
「?」
きょとん、と小首を傾げる愛すべき恋人の額を指で突いた。
可愛くて可愛くて堪らない君よ、
お願いだからオレ以外の男に騙されないでよね!
周りが恐れる門外顧問殿は、彼ら嘘吐きの愛すべきカモなのだ。