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「質素倹約、贅沢は敵です」 が口癖の、現門外顧問のイタリアの少年を落とすのに、ボンゴレの現ボスであるツナはかなり苦労した。 彼の上司である、前門外顧問に心酔しきっている少年の気を引こうと、プレゼントを送っても、高価なものは全部突っ返された。 口実を作って、やっと食事に誘っても、高級なレストランには一切行ってくれず、その辺のファーストフード店やファミレスに連れて行かれる。 どんな高級なレストランも、身なりを整えていけば、誰よりも決まる上品な外見のくせに、安いパーカーとジーンズを穿いて安い牛丼屋に居れば、それなりに違和感のない彼と、その店の方が確実に似合う自分に少々苛立ちを覚える。 多少物に釣られてくれる方が、こちらの意図どおり楽に計画が進むのに、キスひとつする雰囲気を作るのに、一苦労だ。 キスも婚約指輪を渡した時にやっと一回出来ただけである。 キスでこんな有様なので、その後は容易とすすまない。 ファーストフード店で夕食を食べて、山手線で岐路に着く日常に、おいそれと初夜に持ち込める雰囲気などない。 いきなりホテルに誘うのも不自然だし、かといって、親と同居の自宅や人目のある職場で押し倒すわけにも行かない。 一度だけ、日本に作ったボンゴレ本部の近くに借りた、彼の家に行ったことがあるが、質素でギネスでも狙ってるのかと問い詰めたくなるほど質素な部屋で、そこでいたす気にもなれなかった。 4畳半のしけった汚い畳の上に、小さなちゃぶ台と寝袋があるだけだ。 ロマンチックな記憶に残る、初夜の思い出を作ろうとするツナの考えとは程遠い。 どうして寝袋なんだと聞くと、部屋は帰って寝るだけのところですからと、笑いながらこちらの意図と違う答えをしてきた。 そこで散々考え、お互いに休みを取って、一緒に旅行に行くことにした。 が、お互い忙しく、取れたのはたった二日だけであった。これでは国外旅行にもいけない。 いや、国外であれば、英語がまだたどたどしい綱吉には不利であった。 ここはホームグラウンドである日本の国内旅行で勝負をかけることにしようと思い直した。 質素倹約と同時に、効率を重視する門外顧問をエコ出張ならぬエコ旅行で新幹線に乗せ、着いた先の小さな町で、レンタカーを借りて乗せた。 ツナにとっても初めての田舎を、ガイドブックとカーナビに頼って、よたよたと巡る。 社会人になって間もないツナにとっても、車の運転やなれない旅行はなかなか骨が折れた。 お金の自由が多少利くようになった今のツナにとって、お金かけるよりも労力をかける方が大変だとわかってるか?と、ちょっと文句のひとつも言いたくなるが、行く先々のたいしたことのない日本の田舎の風景にいちいち感嘆の声を上げて喜ぶバジルを見ると、そんな気もなくなった。 夕方ごろにその辺りでは一番高い山に登り、小さな町の夜景と満点の星空を仰ぎ、手をつないでしばらく歩いて、やっと一回キスした。 ちょっと高揚した若い二人が、よたよたと慣れない運転で山を下り始めたのは、かなり遅くなってからだ。 小一時間ほどで、「あれ?」とツナが声を上げた。 ちょっと白々しかったかと思い、バジルを見るが、彼はどうしたんですか?と、無邪気な顔を向けてくる。 「・・・かしーな。カーナビ操作、間違えたかな。」と、軽くナビのディスプレイをこぶしで小突く。 まったく町の光が見えない道幅が広いだけの山の中の幹線道路の暗闇で、バジルがちょっとおどおどしだす。 ダッシュボードを探って、カーナビの説明書を取り出すが、説明書には英語でカーナビの説明が書かれていても、バジルには日本の地名が読めない。 だいぶ漢字も分かるようになったが、地名は外国人のバジルにとって、かなり難しいのだ。 万一地名が読めても、旅行の計画をすべてツナ任せだったバジルには、目的地さえ知らないのだ。 ツナがちょっと困ったそぶりでナビをいじりだすと、「拙者、今日は車中泊でもいいです」と、バジルがおずおずと申し出る。 もう時計は夜の10時を回り、町の明かりらしきものは、ここからは微塵も見えない。 「せっかくの旅行に、そんな訳にはいかない。大体いつも寝袋で寝てるようなワイルドなお前と違って、俺は車中泊なんてやだかんな」と、ツナが開き直ってわめきだすと、バジルはすまなそうに黙りこくった。どっちが被害者だか分からない。 「おっ」と、ツナがつぶやくと、急なカーブを曲がった目の前には、偶然には出来すぎた感の、渡りに船なホテルの看板が現れた。 なぜこんな山の中に・・・・それに、ちょっと日本の田舎らしからぬ派手な看板。 「ちょうどいいよ。ここに泊まろう」 バジルと違い、ツナは特に不信感も抱いてないようで、その建物の中に入っていく。 高級なのか下品なのかよく分からない建物の門を車がくぐり、「高そう・・・・と言うより、ぼったくられそうだ」と、バジルが不安に思う。 しかしここで嫌と言えば、ツナにつらい思いをさせるかもしれない。 覚悟を決めたが、看板に書かれる数字に、バジルは驚いた。 「二人分でこの値段なんですか?」 田舎のホテルの素泊まりとはいえ、街中の普通のホテルの相場よりかなり安い金額に、ちょっと驚いている。 薄暗いフロントには人もおらず、ただ部屋の写真とボタンが並んでいるだけだ。 山の中の怪しい雰囲気に、ちょっと警戒さえ見せるバジルに、「人件費を削って効率化してるんだよ」と教えると、節約が好きなけち臭い少年は、「ハイテクだ!さすが日本だ!」と、とたんに警戒心を解いて、しきりに感心しだした。 この人、意外に扱い楽かも・・・・と、ツナが苦笑する。 無人のランプに導かれた、フロントで選んだ部屋に入ると、さらにバジルが騒いだ。 全体的にピンクで占められた部屋は、これでもかと言うほど、フリルやレースでかわいらしく、いやむしろけばけばしいほどに飾られていた。 いつもなら、いったいこの部屋はいくらなんだと騒ぎ出すが、今回は先に値段を見せていたので、ただひたすらに感動するだけだ。 「すごい!かわいい部屋ですね。安いからどんな質素な部屋かと思ったら・・・・高級ホテルのスイートみたいです」とはしゃぐ。 おまえ、本当に高級ホテルのスイート泊まった事あんのか?という突っ込みと笑いを、ぐっとこらえる。いや、バジルなら、絶対無い。 「ベッドは広いけどひとつなんですね。」「こうすると、洗濯がひとつ分で済むだろ?効率化だよ」「なるほど」 「シャワールームとトイレがガラス張りなんですね」「こうすると、見栄えがいいだろ?効率化だよ」「なるほど」 何に納得してるのか分からないが、とりあえず笑顔でハイテンションになっているバジルに、ツナはほっとした。 気に入ってくれているようだ。実は迷った振りをしてたどり着いたが、ここが目的地なのだ。 ネットで死ぬ気で検索して見つけた、このホテルに泊まるために旅行先を決めたのだ。 他にも水族館を模した物や、ジャングルを模した物もあったが、ここに決めたのは、ピンクで飾られたのがロマンチックに思えて気に入ったからだ。 意外にロマンチストなのは俺の方なのかもなと心の中で苦笑する。 まぁ、それ以外にも、シャワールームがガラス張りでベッドルームから丸見えなのもここを選んだ理由なのだが・・・。 先にバジルをシャワールームに押し込むと、部屋から丸見えのいわゆる効率のいい構造に、恥ずかしそうにこちらに背中を見せてお湯を浴びる姿が、また色っぽい。 気にしてない素振りで冷蔵庫を漁る振りをしていたが、髪を洗い始めた無防備な背中に、どうにも押さえが利かなくなり、そのまま服を脱いで自分もシャワールームに入る。 ガラス張りなので、ツナが入ろうとするのは見えたが、止めるまもなく、あっという間にツナが中に滑り込んでくる。 俺も汗を今流したくなったと言われれば、バジルも断れずに、狭い空間で二人で体を洗いあったりした。 そのまま抱きつき、薄暗いライトとお湯の滴りの元、キスまで出来た。 その雰囲気のまま、上がってすぐベッドに入って、効率よくそのまま、やっと、念願の初夜を過ごすことが出来た・・・。 朝、目を覚まして時計を見ると、とっくに日が高い時間で、恋人は横で足を絡めながらすやすやと寝息を立てている。 足を絡められているので、身動きが取れない。 仕方ない。このままでいるか。しかし後小一時間彼が目を覚まさなかったら、延長料金をとられるなと考え、この門外顧問の価値感にかなり毒されてる自分に気づき、苦笑する。 まったく、彼の性格さえなければ、初夜はもっとロマンチックに、高級なホテルで段取りも凝るはずだったのに・・・・。 贅沢を嫌う彼のおかげで、初夜は安いラブホになってしまった。でもここまでするのに、お金掛かってないけど、手間掛かってるから、いい思い出にはなったかもしれない。 苦笑するツナの腕の中で、延長料金を心配することもなく、まもなく小さく呻くと、相手が目を覚ました。 しばらく状況が飲めないようできょとんとしていたが、急に昨晩のことを思い出したようで、赤い顔を恥ずかしそうにもぞもぞしだし、微笑みながら言った。 「・・・すごく贅沢です。好きな人の腕枕で目を覚ませるなんて・・・・」 |